実習記録の書き方
実習準備
書き方のポイント~ゴードン編~
INDEX
領域ってなんだ?
患者さん、家族、カルテから情報収集して得られたたくさんの情報を、みなさんはどのように整理していますか? 頭の中で整理するのは至難の業。そこで登場するのが看護概念モデルをもとにしたデータベースです。ヘンダーソンの「看護ケアの14の構成要素」、ゴードンの「11の健康機能パターン」、ロイの「4つの適応様式」といった看護理論家や看護概念の名前はみなさんも授業で学んでご存知ですよね。さぁ今こそ活用する時です! これらの概念モデルを使って情報を整理することで、効率のいいアセスメントが可能になります。
ここではゴードンの「11の健康機能パターン」をデータベースに用いて説明していきます。パターンは「領域」とも言われ、患者さんを理解する視点になります。ゴードンは患者さんを11個の領域に分けてとらえ、アセスメントを行うことと唱えています。領域ごとに情報を分類していくことで、患者さんがどこに問題を抱えているのかが客観的にわかり、看護診断・看護計画へ進めていくことができるのです。
「患者さんの全体像を把握しなさい」と先生から言われてもなかなかできない…という悩みをよく聞きます。疾患の視点だけではなく、こういったデータベースを用いて整理することで、患者さんの生活状況や価値観の視点を取り入れた「個別性のある看護計画」になっていきます。
ゴードンの機能的健康パターンと記録の実際
11のパターンにはどのような情報があてはまるのか、記載例と共に以下に示します。みなさんの受け持ち患者さんの言葉や観察項目はどの領域にあてはまるでしょうか?
S)タバコをやめる気はないね
O)20歳から現在まで1日20本の喫煙歴 禁煙経験なし
O)自炊はせず、コンビニやスーパーのお惣菜を買って食べていた
O)糖尿病食1600kcalを毎食全量摂取
O)BUN14mg/dl、Cr1.3mg/dl.尿量1100ml/日
O)入院5日目だがまだ排便みられない
O)安静度:ベッド上、ギャッヂアップ30度まで
O)入院前は毎朝のウォーキングが習慣だった
O)睡眠時間6時間。夜間2回覚醒する
S)膝は痛みますけど薬を飲むほどではありませんね
S)この際しっかり治療して完治したいです
O)会社員で営業部長の職にある
O)近所に娘夫婦が住んでいる
O)信仰は特になし
SOAPの書き方を知ろう!
みなさんは情報を「SOAP」形式で記載することが多いと思います。情報といえばまず「S」と「O」。これがなければアセスメントやプランニングは成り立ちません。「S」は主観的データ(Subjective data)で、患者さん(家族のこともあり)が実際に発した言葉を記載します。「O」は客観的データ(Objective data)で、観察したり測定したりして得られた情報のことをいいます。「A」はみなさんの分析・解釈・評価が書かれたアセスメント、「P」はアセスメントによって挙げられた問題を解決するための看護計画のことです。
「とにかく片っぱしから情報をとろう!」というやる気は買いますが、それだけではケアにつながる情報は集められません。カルテの情報からどんなことを聞けばいいのかというリストを作っておくと、聞きもらしを減らすことができます。また、どんな看護計画が立てられそうかを予想し、その視点を常に頭に入れながら情報収集すると、「アセスメントにつながる情報」が得られます。
まず標準的なケアを理解し、それを受け持ち患者さんに実施するためにはどこをどう変えればいいのかを考えるという方法もいいと思います。それが「個別性」のあるケアにつながっていくのです。
お悩みコーナー
「S」と「O」の分類ができない
先ほど述べたように、「S」は患者さんや家族が実際に発した言葉ですから、記録用紙にはその言葉そのものを記載しましょう。たとえば「お腹が痛いと言っていた」と書いた場合は「S」情報とは言えませんよね。この場合の「S」は「お腹が痛い」となります。
また、「O」情報ではアセスメントを混ぜて記載している例がよく見受けられます。たとえば「疼痛軽度」とは「O」情報でしょうか? 答えはNOです。「軽度」という表現は非常に曖昧で、人によってモノサシは異なります。何をもって軽度と判断したのか、判断基準となる情報が「O」情報となり、「疼痛軽度」はアセスメントなのです。疼痛に関してはペインスケールを患者さんと共有することで客観化できます。「ペインスケール1。疼痛時用に処方されている鎮痛剤を内服せず日中過ごせている」のように書けば、患者さんとの会話や観察したことから得られた客観的データを示すことができます。
アセスメントがうまく書けない
「S」と「O」は書けたけどアセスメントが苦痛で…という悩みは誰もがぶつかるのではないでしょうか。アセスメントには「S」と「O」から導くみなさんの思考が表れています。そもそもアセスメントできるだけの根拠となる情報が集められているのか、疾患に関する知識は十分持っているか、患者さんは今後どのような経過をたどると予想されるのか、といったことを把握できていることが大切です。
みなさんが考える「患者さんが目指すべきゴール」はどんなものでしょうか? その達成に向けて、なぜ今の状態に陥ったのか、なぜ基準値からはずれてしまったのか、といった「なぜ?」の部分を考えてみましょう。ゴールに近づいていくための課題が1つひとつ見えてくるはずです。
最初はどう書いていいかわからず戸惑うこともありますよね。そういう時は雑誌や文献に書かれているアセスメントを参考にするのもいいと思います。また、グループ内の他のメンバーとデータベースを共有し、どのような書き方をしているのかを学び合う方法も有効です。
看護診断の最優先順位がわからない
マズローの欲求段階説にある「生理的欲求」「安全の欲求」「所属の欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の順に沿って考えるといいと思います。最優先で考えるのは生命に直結した問題です。それ以降の優先順位は患者さんや家族の状況、病態・病期によって変化していきますから、「今何を必要としているのか」を基準にして考えていきましょう。清拭や陰洗、食事介助、リハビリなど、毎日行なっている援助があるのにそれが問題に挙がっておらず、現状と看護診断にズレが生じていることもあります。「なぜこの患者さんには今このケアが必要なのか」をしっかり考えて診断する。その過程がとても重要なのです。
次回は実習記録の例をあげて「いい例」と「悪い例」を比較してみましょう。
高山真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)
看護短大・大学編入学を経て、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(ジャーナリズム修士)。病院、在宅、行政・学校・産業保健、教育機関、イベント救護など、幅広い臨床経験を持つ。並行して看護ライターとしての活動も広げ、ダンス留学、自転車ロードレース選手生活も経験。現在は医療系web編集者として、メディアの立場から看護の発展にたずさわる1児の母。