実習記録の書き方

書き方のポイント~ヘンダーソン編~

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14の基本的欲求とは?

前回のゴードンに続き、今回はヘンダーソンの看護理論で挙げられている「看護を構成する14の基本的欲求」をデータベースに用いて説明していきます。「初めての看護過程はヘンダーソンだった」という方も多いのではないでしょうか。

これら14の構成要素は、人間の基本的欲求に由来しており、入院中の患者さんのみならず、学校や会社など、看護が提供されるあらゆる対象者・場面においてあてはまるとヘンダーソンは述べています。

基本的欲求はマズローの欲求5段階にあてはめて考えることもでき、基本的欲求上位1〜8がマズローの低位欲求の「生理的欲求」、9が「安全欲求」、10〜11が「社会的欲求」、12が「承認欲求」、13〜14が「自己実現欲求」にあてはめて考えることができます。つまり、ヘンダーソンの基本的欲求上位から満たされる、つまり「未充足」から「充足」されることで、その人の健康回復・増進が高まっていくといえるでしょう。

ヘンダーソンの14の基本的欲求と記録の実際

では、14の基本的欲求にはどのような情報があてはまるか、以下に記載例を示します。一緒に考えていきましょう。

基本的欲求
1.正常に呼吸する
情報の範囲
呼吸数、肺雑音、呼吸機能、経皮的酸素飽和度、胸部レントゲン、呼吸苦、息切れ、咳、痰喫煙歴、アレルギー、自宅周辺の大気環境
S・O情報の記載例
O)呼吸数12回/分、SpO2 98%、肺雑音なし
S)酸素つけていると楽だね。
O)5年前に肺気腫の診断を受け1年前より在宅酸素療法中。
2.適切に飲食する
情報の範囲
自宅/療養環境での食事(水分含む)摂取量、摂取方法、嗜好品、アレルギー、身長、体重、BMI、必要栄養量、身体活動レベル、食欲、嚥下機能、口腔内の状態、嘔吐、吐気、血液データ(TP、Alb、Hb、TG)
S・O情報の記載例
S)仕事が忙しくてすぐに食べられるラーメンや丼をよく食べていました。自炊はしません。
O)FBS246、HbA1c13.3、BMI28.5
一人暮らしで外食やお弁当の購入での食事が多かったとのこと。
3.あらゆる排泄経路から排泄する
情報の範囲
排泄回数、性状、量、尿意、便意、発汗、in-outバランス、食事、水分摂取状況、麻痺の有無、腹部膨満、腸蠕動音、血液データ(BUN、Cr、GFR)
S・O情報の記載例
S)水分を摂った方がいいと言われるけど、トイレに行きたくなっちゃうからあまり飲みたくなくて。
O)1日の水分摂取量約500ml。排尿回数4〜5回/日、濃縮尿が見られる。
4.身体の位置を動かし、またよい姿勢を保持する
情報の範囲
ADL、麻痺、骨折の有無、安静度、MMT、ドレーン、点滴の有無、生活習慣、認知機能、呼吸機能
S・O情報の記載例
O)あて枕を使用し、ベッド上で座位保持10分できる。10分を超えると左側に傾いてしまう。
5.睡眠と休息をとる
情報の範囲
自宅/療養環境での睡眠時間、パターン、疼痛、掻痒感の有無、入眠剤の有無、疲労の状態、療養環境への適応状況、安静度、騒音の有無、ストレス状況
S・O情報の記載例
S)睡眠薬を飲んでいるので寝付きはいいです。6時間は眠れているかな。
O)22時に睡眠導入剤内服し就寝、4:00頃目が覚めるとのこと。
6.適切な衣類を選び、着脱する
情報の範囲
AOL、運動機能、認知機能傷害の有無、麻痺の有無、活動意欲、点滴、ルート類の有無、発熱、吐気、倦怠感
S・O情報の記載例
S)利き腕が動かせないと着替えるのも一苦労だな。
O)右上腕骨骨折術後2日目。ボタンの着脱を介助して寝衣交換実施した。
7.衣類の調節と環境の調整により
情報の範囲
体温を生理的範囲内に維持するバイタルサイン、療養環境の温度、湿度、空調状況、発熱の有無、感染症の有無、ADL、血液データ(WBC、CRP)
S・O情報の記載例
S)寒い・・・寒い・・・
O)BT38.8℃。手足冷たい。エアコンで室温28℃に設定しているが寒気を繰り返し訴えている。
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
情報の範囲
自宅/療養環境での入浴回数、方法、ADL、麻痺の有無、爪、鼻腔、口腔の保清、尿、便失禁の有無
S・O情報の記載例
O)自宅では週3回訪問ヘルパーの介助にて入浴していた。妻は膝が悪く、夫の介助は難しい。
O)眠前の口腔ケア実施。舌苔の付着はみられない。
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
情報の範囲
自宅/療養環境での危険箇所(段差、ルート類)の理解、認知機能、術後せん妄の有無、皮膚損傷の有無、感染予防対策(手洗い、面会制限)、血液データ(WBC、CRP)
S・O情報の記載例
S)俺はなんでこんなところにいるんだ?
O)左手の点滴ルートを引っ張り病室から出ようとしている。病院だと説明しても「違う違う」と納得されない。
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションをもつ
情報の範囲
表情、言動、性格、家族/医療者との関係性、言語障害の有無、視力、聴力、認知機能、メガネ、補聴器等の有無、脈拍数、呼吸数、面会者の来訪の有無
S・O情報の記載例
S)家に補聴器置いてきちゃって何も聞こえなくて。悪いね。
O)補聴器をつけた上ではっきりと話せば看護師との会話は可能と外来看護師より情報あり。息子さんが来院するまでは筆談でのやりとりでコミュニケーションとれる。
11.自分の信仰に従って礼拝する
情報の範囲
信仰の有無、価値観、信念、信仰による食事、治療法の制限
S・O情報の記載例
S)自分で納得した上で抗がん剤治療を受けようと思います。
12.達成感をもたらすような仕事をする
情報の範囲
職業、社会的役割、入院、疾患が仕事/役割に与える影響
S・O情報の記載例
O)去年仕事を定年退職し、今は近くに住む孫と遊ぶことを楽しみにしている。
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
情報の範囲
趣味、休日の過ごし方、余暇活動、入院、療養中の気分転換方法、運動機能障害、認知機能、ADL
S・O情報の記載例
S)山が好きで元気な時はよく登っていたけど、これからはもう無理かなぁ・・・
14.“正常”な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
情報の範囲
発達段階、疾患、治療方法の理解、学習意欲、認知機能、学習機会への家族の参加度合い
S・O情報の記載例
S)先生の話聞いたけど全然わからなかったよ。
O)主治医から今後の治療方法について本人・家族に説明があり、終了後上記発言が聞かれた。同席した娘は理解したとのこと。

また、これらの基本的欲求に影響を及ぼす、以下の常在条件があることも考慮する必要があります。

1.年齢
新生児、小児、青年、成人、中年、老年、臨終
2.気質、感情の状態、一過性の気分
  1. “ふつう”
  2. 多幸的で活動過多
  3. 不安、恐怖、動揺、ヒステリー
  4. 憂うつで活動低下
3.社会的ないし文化的状態
  1. 適当に友人がおり、また社会的地位も得ていて家族にも恵まれている場合
  2. 比較的孤独な場合
  3. 適応不全
  4. 貧困
4.身体的ならびに知的能力
  1. 標準体重
  2. 低体重
  3. 過体重
  4. ふつうの知力
  5. ふつう以下の知力
  6. 天才的
  7. 聴覚、視覚、平衡覚、触覚が正常
  8. 特定の感覚の喪失
  9. 正常な運動能力
  10. 運動能力の喪失

※湯槇ます・小玉香津子「看護の基本となるもの」日本看護協会出版会 2016 p27より抜粋

応用編

さらに、基本的欲求を変容させる病理的状態も把握しておきましょう。

  1. 飢餓状態、致命的嘔吐、下痢を含む水および電解質の著しい平衡傷害
  2. 急性酸素欠乏状態
  3. ショック(虚脱と失血を含む)
  4. 意識障害ー気絶、昏睡、せん妄
  5. 異常な体温をもたらすような温熱環境にさらされる
  6. 急性発熱状態(あらゆる原因のもの)
  7. 局所的外傷、創傷および/あるいは感染
  8. 伝染性疾患状態
  9. 手術前状態
  10. 手術後状態
  11. 疾病による、あるいは治療上指示された動けない状態
  12. 持続性ないし難治性の疼痛

※湯槇ます・小玉香津子「看護の基本となるもの」日本看護協会出版会 2016 p27より抜粋

例えば「肺炎」を例に考えても、上記のような様々な病理的状態や社会的・文化的背景までも含めて考え援助していくことが看護の大きな役割といえます。

次のページでは実習記録の例をあげて「いい例」と「わるい例」を比較してみることにしましょう。

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プロフィール

高山真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

看護短大・大学編入学を経て、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(ジャーナリズム修士)。病院、在宅、行政・学校・産業保健、教育機関、イベント救護など、幅広い臨床経験を持つ。並行して看護ライターとしての活動も広げ、ダンス留学、自転車ロードレース選手生活も経験。現在は医療系web編集者として、メディアの立場から看護の発展にたずさわる1児の母。

高山真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

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