助産師としての働き方

助産師という仕事

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助産師としての日々の業務への向き合い方、やりがいや難しさとは何か。
ここでは病院で働く助産師に注目し、
医療法人徳洲会 湘南藤沢徳洲会病院の産科で活躍する
加藤沙実さんにお話を伺いました。

母の出産を支えた助産師へのあこがれから始まった

医療法人徳洲会 湘南藤沢徳洲会病院の産科で助産師として活躍する加藤沙実さん

10歳年下の妹が生まれるとき、私の母は助産院での出産を選択しました。そのときに母に寄り添ってくれた助産師さんがとても頼りになる素敵な方で、子ども心に大きなあこがれを抱きました。「赤ちゃんがたくさんいる、いいにおいのする場所」も大好きになり、命が誕生する瞬間に立ち会える助産師になりたいという思いは、進路選択する年齢になっても変わらず持ち続けていました。

4年制の看護大学に進学後は、学内の選抜試験を受け、助産師コースと保健師コースの両方を選択しました。助産実習では正常分娩の介助を10例以上経験する必要があり、泊まり込みになることも多いです。今でも強く印象に残っているのが、初めてお産の介助をさせていただいたシングルマザーのお母さん。支えてくれるパートナーがいないなかでの出産は不安だろうな……というマイナスのイメージを持って現場に入ったのですが、実際にお母さんと接してみると、その芯の強さに驚かされました。そして、思い込みを捨て、一人ひとりのお母さんと真摯に向き合うことが大切だと勉強させていただきました。一方で、赤ちゃんが生まれたらそれで終わりというわけではなく、母子ともに継続的な支援が欠かせないということを実感した側面もあります。赤ちゃんが生まれるまではもちろんのこと、そこからスタートする育児を支えることも助産師の大切な仕事なのです。

3つの資格を4年間で取得するのはとてもハードで、勉強に明け暮れる学生生活でしたが、もともと負けず嫌いな性格ということもあり、あきらめるという選択肢はありませんでした。無事に保健師・助産師・看護師の資格を取得して卒業した後は、榛原総合病院へ入職。そこで1年半ほど産科に勤めてから、当院へ転勤することになりました。今では助産師歴も5年となり、お産の介助をはじめとする日々の業務に当たるほか、実習に訪れる助産学生への指導なども担当しています。今後は、高齢出産した方や産後うつの心配がある方など、特にサポートが必要なお母さんの産後へ積極的に関わっていきたいというのが目標の一つ。臨床心理士などとも連携して、退院してからも母子を守れるような存在でいられたら…と考えています。

お母さんが望む環境でのお産を実現するために

助産師の業務内容について話す加藤沙実さん

当院の産科では、日勤が8時間、夜勤が16時間の2交代制を取っています。お産はいつ始まるか分かりませんから、夜勤でも常に3人は助産師や看護師が病棟にいます。その分、いわゆるオンコールはなく、ワークライフバランスは優れていると感じています。分娩、褥婦、新生児、NICU、外来という5つの領域についてローテーションが組まれ、出勤日ごとに何を担当するかが変わっていきます。現在は25人の助産師と3人の看護師が在籍しており、業務内容がそれぞれ大きく異なるわけではありませんが、分娩を担当するのは助産師のみです。

病棟では、午前中の早い時間に赤ちゃんの沐浴や身体測定を行うという動きはある程度決まっているのですが、その後はお母さんや赤ちゃんの様子によって柔軟に対応していくイメージです。出産のタイミングはもちろんのこと、出産後も時間を決めて一斉授乳するといったことはなく、個別のリズムを重視してケアを行っています。

NICU(3床)GCU(3床)では、専任の看護師3人に加えて産科の助産師もケアに携わります。外来業務では、できるだけ自然分娩に向けて体作りをしていけるよう、妊婦さんへの指導を行っています。助産師の世界では「妊娠が7割、分娩が3割」と言われることがあるくらい、妊娠中の健康管理が重要です。健康である方はもちろんのこと、妊娠高血圧や妊娠糖尿病、切迫早産など、様々な状態の妊婦さんのサポートができる体制を整えています。

よりスムーズなお産を促すために、LDR(陣痛分娩回復室)を導入していることも当科の特徴の一つです。分娩台に早変わりするベッドは横幅が広く、仰臥位だけではなく、側臥位や四つん這いなど、ベッド上でも自由な体位でお産ができます。また、和室を利用してのフリースタイル出産も可能です。実は「お母さんが出産しやすい体位」と「助産師が赤ちゃんを取り上げやすい体位」は一致しないことも多く、自由度を高くするほど助産師にも技量が求められます。四つん這いでのお産を介助したときなど、次の日は全身の筋肉痛に悩まされることもありますが、やはりお母さんが望む体位を優先したほうがよいお産になると実感しています。ほかにも、お父さんやお子さんの立ち合いを可能にしたり、音楽やアロマで精神的なケアを提供したりと、できるだけお母さんが望むような環境でのお産を実現させるよう心がけています。

生命の誕生をサポートする喜びと重みをかみ締めながら

助産師の仕事のイメージ

妊娠中から産後まで助産師の仕事は多岐にわたりますが、私が一番好きなのは、やはり分娩の瞬間に立ち会うことですね。生命の誕生をサポートできる喜びは何物にも代えがたく、助産師になってよかったと心から思います。また、母子の安全を守るのが助産師の最も重要な役割だと思っているので、無事に赤ちゃんが生まれ、大きな声で泣き、お母さんの幸せそうな表情を見たときに大きなやりがいを感じます。

もちろん、母子の命を預かるという責任はとても重いもので、「自分がこうしたら、もうちょっと早く赤ちゃんを出せたかもしれない」などと落ち込んだり、自分のふがいなさを責めたりすることもあります。ただ、落ち込みっぱなしではなく、それをバネに勉強したり、奮起して次のお産に備えたりできるメンタルの強さは必要だと思います。

助産師として5年間現場に立ってきましたが、先輩助産師を見ると「自分はまだまだ……」と感じることも多いです。お産の介助はもちろんこと、お母さんへの声のかけ方や接し方にも経験の差が出ていることを思い知ります。例えば、残念ながら子宮内で赤ちゃんが亡くなってしまったという厳しいケースに直面して、私は「自分なんかに何を言われても……」と一歩引いてしまうところがあったのですが、先輩の助産師は「お母さんも赤ちゃんも、本当によくがんばったね」と自然に声をかけ、丁寧に話を聞き取っていました。「この人の言葉を聞いていると安心する、信頼できる」と思ってもらえるような存在に私もなりたいと強く思わされました。

助産学生の実習を受け入れていると、自分の学生時代を思い出します。初めのうちは「子宮口が7cmのときはこういう状態」と教科書的に判断しがちですが、一人として同じお母さんや赤ちゃんはいません。それまでの経過や背景を理解したうえで、個別性のあるケアを提供することが大切ですから、その部分を助産実習で理解してもらえればと思います。悔しい思いをすることもたくさんあるでしょうし、自分の力が及ばず涙が出る場面もあるでしょう。それでも「やっぱりお産は素晴らしい」という初心を忘れずに、がんばり抜いてほしいですね。

出産は、女性の一生で数回しかない貴重な機会であり、家族にとっても大きな分岐点となります。赤ちゃんを授かって家族のかたちが変化していく場面に立ち会えることに感謝しながら、これからも助産師として走り続けたいと思います。

医療法人徳洲会 湘南藤沢徳洲会病院

2012年10月に神奈川県藤沢市辻堂へ新築移転(前身は茅ヶ崎徳洲会病院)。一般419床(ICU10床)を有する急性期総合医療機関として「いつでもだれでもが、安心して医療を受けられる地域社会」の創造に貢献している。

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