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看護学生が一般企業への新卒入社を決意したワケ

「卒業後は病院へ」と考える看護学生が大多数を占める中、一般企業に目を向ける人もいます。
京都大学医学部人間健康科学科看護学専攻で学んだ中込千夏さんもその一人で、
あえて臨床の道を選択しませんでした。
医療・福祉分野の問題解決に挑むケアプロ株式会社に新卒入社し、
ビジネスの世界から人々の健康課題に取り組む中込さんに、
進路選択時の悩みや葛藤、現職への思いを聞いてみました!

実習で感じた「モヤモヤ」が進路変更の原動力に

私は中高一貫校に通っていたのですが、そこでの人間関係がなかなかうまくいかず、登校するのがつらい時期がありました。そのとき養護教諭の先生が心の支えになってくれ、保健室に居場所を持てたことで、少しずつ教室にも通えるようになっていきました。その経験から、私も人の心をケアできる存在になりたいと思い、看護学を専攻することに。大学での学びは魅力的で、臨地実習で患者さんと関わることも楽しかったです。

実習で感じた「モヤモヤ」が進路変更の原動力に

ただ、ある臨地実習で現場の看護師さんたちがあまりに多忙で、看護学生も相談のタイミングが分からず、先輩方も落ち着いて学生指導をする余裕がないように感じました。教育に時間を割けないほど、業務中に余裕が無い状況の一因には、「看護師の職場=病院」という固定観念があると考えています。というのも、他業界・多職種と人材を取り合う必要が無いので、働く人にとっての良い環境を整えるための競争が生じないのです。固定観念が強い背景には、看護師のキャリアがほとんど病院内で閉じられていることがあると思います。私が受けたキャリア教育も、病院の中で看護師としてレベルアップする話が多く、「病院の外」についての話はなかなか耳にする機会がありませんでした。看護師が病院以外の進路にも目を向けるようになれば、人材確保のために良い意味での「競争」が生まれ、病院の働き方改革がもっと進むかもしれません。

こうしたモヤモヤを抱えつつ、当時の私は「そうは言っても看護師か保健師、あるいは養護教諭になるのだろうな」と思い込んでいました。そんな私に思いがけない一言をくれたのが、一般企業への就活を終えた他学部の知人でした。私が「医療現場でやりがいを持って働けるか分からない」と相談したとき、「ヘルスケア系の一般企業という道はないの?」と言ってくれたのです。考えたこともない選択肢だったので、「そんなのアリ?」と驚くと同時に、一気に視野が開けた気がしました。この一言があって、「ビジネスの世界から人々の健康に携わる」という私なりの人生のコンセプトが見えてきたと思います。

「遠距離就活」に臨地実習、卒論、国試対策でバタバタ!

しかし、このときすでに4年生の夏。他学部なら、すでに内定を得ている人も多い時期です。動き出しが遅れたことを挽回するため、必死に情報収集を始めました。医療・介護分野で事業展開している会社をターゲットに、15社ほどエントリー。都内の会社も多かったので、京都から新幹線で移動しながらの「遠距離就活」となりました。当時は保健師の臨地実習中だったので、移動中も書類を作成するなど、休む間もなく動き回っていたことを覚えています。2019年10月ごろからは卒業論文の執筆と並行して、絶対に行きたかった海外旅行も2度実現させました。やりたいと思ったことは絶対にあきらめない性格なので、公私ともに妥協せず、気合いで駆け抜けた1年間だったと思います。

就職活動を通して印象に残っているのは、どの会社の面接でも「なぜ、看護学生なのにうちへ?」と聞かれたこと。他学部生とは見られ方やスタートラインが違うことを再認識しました。そして、何より大変だったのは、ロールモデルがいなかったことです。自分と同じような道をたどった方の情報を見つけることができず、相談できる人もいない状況でした。ただ、「せっかく新しいことに挑戦するなら、納得できる進路が決まるまで粘ろう」という決意も固まり、両親には「就職浪人の可能性もある」と伝えました。

どの会社の面接でも「なぜ、看護学生なのにうちへ?」

看護師国家試験・保健師国家試験の対策にはなかなか時間が割けず、ラスト2か月でスパートをかけざるを得ませんでした。当時は、半日ほど机にかじり付いていましたね。試験範囲がとても広いので、教科書を最初から読み直しても、どんどん暗記したものが抜けてしまいます。短期間で学習効率を高めるなら、インプットとアウトプットを同時進行で行うべきだと考えました。そこで、それぞれの試験の過去問を3周ずつ行い、間違えたところや必修問題はさらにもう1周。解説をしっかりと理解しながら問題に慣れていくことで、合格ラインに達することができました。

看護の力を生かせる場は「病院の外」にも開けている

最終的に入職を決めたケアプロ株式会社は、興味があった予防医療に関する事業を展開していることに加えて、「プロとして正しい医療倫理観を持て」「医療界の革命児たれ」「新市場の先導者を目指せ」という理念に魅力を感じました。また、稼げるかどうかだけではなく、本当に社会に必要とされているかという基準で物ごとを判断し、社会的課題に対して積極的に挑戦する姿勢にも共感しました。残念ながら、当時は在宅医療事業部以外での新卒募集がなかったのですが、あきらめきれず問い合わせフォームからメッセージを送り、ぜひ入社したいという思いをぶつけたところ、見学会や面接、インターンシップにつながり、最終的には内定をもらうことができました。

現在は交通医療事業部に所属し、移動支援のマッチングプラットフォーム「ドコケア」の普及をめざして営業を担当しています。単独での外出が難しく困っている人と、その外出を支援する人をつなぐサービスです。スタートアップの事業ということもあり、法人との提携・契約を進めるほか、チラシやポスターのデザイン、SNSの運用、説明会の企画・運営、業務マニュアルの作成など、やるべきことはたくさんあります。どんな業界でも、新卒1年目で業務上の大きな成果を出すことは難しいと思いますが、だからこそ私を信じて任せてもらえたり、一緒に働くメンバーが「小さな成功」を一緒に喜んでくれたりすることが、今のモチベーションの源泉です。

大学時代に学んだ知見が今の仕事に役立つ場面も少なくありません。外出介助のポイントなどを伝える教育コンテンツ「ドコケア学」の企画や原稿作成も私の担当なのですが、身体の仕組みや介助方法などを学んできたので、より分かりやすく正確な内容にできるのが自分の強みだと考えています。「医療的に不正確な内容になっていないか」「当事者や家族が目にしたとき傷付くような表現はないか」といった視点で内容を精査しています。

「心から納得できるキャリアを選んでほしい」

実は、一般企業をめざす決意を周囲に打ち明けたとき、「私も興味があるけれど勇気が出ない」と話してくれる友人もいました。今でも、後輩や同期からキャリアの相談を受けることが少なくありません。看護を学んだ以上、どうしても「まずは病院に就職するのが当然」と思い込みがちです。もちろん、医療現場で活躍する看護師さんたちが素晴らしいことは間違いありませんが、その力が必要とされる場所は他にもあるはずです。ヘルスケア系の一般企業などでは看護師の知見を生かしやすいですし、「他者の気持ちをくみ取るプロ」としてのスキルは、どんな職場でも絶対に役立ちます。周囲の選択に流されるまま社会に出るのではなく、「本当にやりたいこと、向いていることは何だろう?」と、あらためて自分自身に問いかけ、心から納得できるキャリアを選んでほしいと思います。

プロフィール

中込千夏さん

中込千夏(なかこみちか)

1997年兵庫県生まれ。京都大学医学部人間健康科学科看護学専攻を卒業後、医療・福祉分野の問題解決に挑むケアプロ株式会社に新卒で入社。現在は交通医療事業部に所属し、医療系法人への営業や、教育コンテンツ「ドコケア学」の立ち上げや運営などを担当している。