ナーストピックス

Topic. 31

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BOC(basic oral care)プロバイダーで
口腔ケアを武器にする

口腔ケアは看護師が患者さんに対して頻繁に行うものでありながら、学ぶ機会が限られています。
そうした現状を受けて、口腔ケアの知識と技術を身に付け、
一定水準に達した人を認定しているのが
BOC(basic oral care)プロバイダー(一般社団法人訪問看護支援協会認定)です。
同協会の代表理事を務める高丸慶さんと、講座統括を務める長縄拓哉さんに、
BOCプロバイダーの意義や教育システムについて伺いました。

臨床で求められる口腔ケアを教わる機会は少ない

臨床で求められる口腔ケアを教わる機会は少ない

写真はイメージです。

――BOCプロバイダーは口腔ケアを学び、実践する人を育てるプログラムということですが、どういうプロセスで認定を受けるのでしょうか。

長縄:申し込み後、「口腔ケア基本講義」(3時間)を受け、口腔ケアに関する最新の知見やエビデンスを学んでもらいます。実際の口腔ケア手技のデモ動画を見てもらったり、確認問題を受講生みんなで解いたり。短い時間ですが、基本的なことをギュッと凝縮し、これさえ知っていれば大抵のシーンでは困らない内容になっています。この修了者に対して、認定証を発行しています。

高丸:講義の対象者は看護師、歯科衛生士、介護福祉士、ケアマネジャーなどですが、約9割を看護師が占めています。2021年5月現在で、トータルの認定者数は1005人。年齢層は若手から中堅、ベテランまで幅広いです。

長縄:認定証を受け取っても、それがゴールではありません。むしろ、スタート時点に立つための「入学試験」のようなもので、ここから基礎の上に乗る応用を学んでいく長い旅路が始まるのです。

――口腔ケアのことを深く学びたいという看護師は多いのでしょうか。

高丸:僕の看護学生時代を思い返してみたら、口腔ケアのことを習った記憶はほとんどありませんでした。口腔の解剖は勉強しても、ケア方法に関してはさっぱり…という感じで。実際、某学会の看護部会で、有名な先生方が看護教育の中で口腔ケアが占める地位の低さを嘆いていたのを聞いたことがあります。それには同感だったのですが、その先生方は1コマかそこらしかない口腔ケアの教育時間を2コマに増やすにはどうしたらいいかということを真剣に話し合っていらっしゃった。僕は正直、「まず考えるべきところは、そこじゃないかも……」と感じました。こうした経験が、BOCプロバイダーを構想するスタート地点だったと思います。

高丸さん

長縄:看護教育で習っていなくても、看護師になって現場に出たら「口腔ケアを1日3回やってください」と言われるんですよね。習っていないのにやらなきゃいけない。先輩看護師に聞くしかないけれど、その先輩だって習っていないのですから。そういう医療現場はおかしいな、という思いがありました。

ただ、教わる機会や仕組みがないのなら、それを作ればいい。看護教育を変えるのは時間もかかるでしょうから、私たちにできることは何かと考え、BOCプロバイダーの企画を始動させたのです。

――受講者は看護師が大半ということですが、受講動機はどういうものが多いですか。

高丸:「私は看護師である」という信念がど真ん中にあり、その臨床業務に生かすためという明確な意識を持っている人が多いと思います。今まで臨床で口腔ケアをやってきて、ある程度は分かっているつもりだけれど、「口の中のことだけ分かっていればいい」という認識では限界があると知り、もっと深く学ぶ手段を探してBOCプロバイダーにたどり着いた――というケースが典型例ですね。

長縄:歯科医師や歯科衛生士は口の中のことに関する専門家ですが、ほとんどの場合、患者さんの全身状態までアセスメントしながら歯をさわっているわけではありません。一方、医師は全身のことが分かるけれど、口の中のことだけが分かりません。そういう意味では、全身状態のアセスメントができ、実際にケアをする立場の看護師こそが、口腔ケアのスペシャリストとして最もふさわしいのだと思います。

長縄さん

高丸:BOC(basic oral care)と言っているくらいですから、本当はBLS(basic life support)と同じように、医療従事者はもちろん、一般の方でも基本的な口腔ケアの知識と技術は身に付けたほうがいいと思います。いつ親の介護が始まって、家族でケアしなければならなくなるか分かりませんから。ただ、現段階では看護師を中心にBOCの「使い手」を増やしていっているということです。

学生がBOCプロバイダーに挑戦することも可能

――先ほど、基礎を固めたら応用を学んでいくというお話がありましたが、具体的にはどういうことでしょうか。

長縄:認定証の発行を受けたら、口腔ケアの基礎は学んだということになります。しかし、全身状態のアセスメントの上で口腔ケアをする、例えば人工呼吸器を装着していたり、終末期だったり、化学療法や放射線の影響で口腔粘膜炎がひどいとか、認知症があって拒否する患者さんに口腔ケアをするといった応用編までは、3時間程度ではとても学びきれません。

高丸:そこで、BOCプロバイダーに認定された後は、Facebookグループ(BOCプロバイダー公式グループ)に参加して、オンラインのメリットを最大限に生かしながら応用編を学んでもらいます。グループ内では過去の講義動画やライブ配信の視聴ができますし、BOCプロバイダー同士の情報共有・相談も盛んに行われています。メンバーを対象としたイベントも頻繁に開催しています。

長縄:グループ内では最新の情報が流れているので、自分の知識を常にアップデートできます。また、相談に関しては講義動画などに関連したものに限らず、それぞれの臨床業務から生まれた疑問・質問を投げることも可能です。例えば、最近では、「がんで口腔機能が悪化し、痛みがある患者さんの口腔ケアはどうやったらいいでしょうか」「味覚障害がある場合、昨今はCOVID-19感染が疑われますが、他の要因は考えられるでしょうか」といった相談がありました。オンラインでなければ出会わなかったであろう仲間たちとつながり、学び合う環境が実現できていることは本当によかったと思います。

オンラインのメリットを最大限に生かしていく

――BOCプロバイダーとして応用を学び、さらに上位の任に就くこともできるそうですね。

高丸:BOCプロバイダーの役割には、大きく分けて以下の3つがあります。
(1)provide(臨床で口腔ケアを行う)
(2)spread(口腔ケアの知識や技術を周囲に拡散する)
(3)keep updated(provideやspreadをするために学び続ける)

これらを高度に実践できる人材を生み出すため、BOCプロバイダーからさらに上位レベルの立場にステップアップできるようにしています。

長縄:具体的には、BOCインストラクター(約20人)、BOCアカデミックプロバイダー(10人)、AOHC(advanced oral health care)プロバイダー(約30人)があります。インストラクターは名前の通り指導者の立場で、特にspreadする能力に優れています。アカデミックプロバイダーは、臨床研究をして論文を発表し、エビデンスを発信していくチームです。AOHCプロバイダーは、provideの能力に長けた人材を育てるプログラムになります。人の考えや行動を変容させるのは大変ですから、特にspreadが難しいと考えていて、僕らが大学院で学んだ行動変容理論やコミュニケーションデザインなども駆使しつつサポートしていきたいと思っています。

――最後に、看護学生の皆さんにメッセージをお願いします。

看護学生の皆さんにメッセージ

高丸:看護学生のうちからBOCプロバイダーに挑戦した人もいます。看護の臨床では、口腔ケアを学ぶ優先度が低くなりがちです。BOCプロバイダーが増えることで、口腔ケアの知識や技術を周囲にspreadし、そうした現状を変えていくことができると思います。そうして患者さんの口の中が健康になり、誤嚥性肺炎などのリスク低下につながれば幸いです。

長縄:学校とは別のコミュニティーに入ることで、看護を学ぶ者として視野を広げることができます。働き始めてからも、職場とは別の居場所を作っておくことは意味のあることだと思います。オンラインのコミュニティーでは物理的制限のない全国規模で、信頼できる仲間を見つけることができます。単に「認定を得ておしまい」ではなく、オンラインの良さを生かして継続学習できるBOCプロバイダーを、ぜひ活用してください。

プロフィール

高丸慶

  • 看護師、保健師、居宅介護支援専門員
高丸慶さん

慶應義塾大学看護医療学部を卒業後、同大学大学院健康マネジメント研究科修士課程修了、同博士課程単位取得退学、デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科修士課程修了。2013年、一般社団法人訪問看護支援協会代表理事に就任。

長縄拓哉

  • 歯科医師、医学博士
長縄拓哉さん

東京歯科大学卒業。初期研修医時代から東京女子医科大学病院、歯科口腔外科学講座で口腔腫瘍、顎顔面外傷、口腔感染症治療に従事し、それぞれ認定医資格を取得。デンマーク・オーフス大学に留学し、口腔顔面領域の難治性疼痛を研究。国際歯科研究学会議(IADR2015)ニューロサイエンスアワード受賞。DJ-Teletech日本代表。日本遠隔医療学会・歯科遠隔医療分科会会長。日本口腔顔面痛学会評議員。日本口腔内科学会代議員。

※BOCプロバイダー(一般社団法人訪問看護支援協会認定)の申し込みや認定資格講座の概要などについては、下記の公式ウェブサイトをご覧ください。
https://boc-provider.info/

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