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看護学生必見のドキュメンタリー映画
『人生、ただいま修行中』
ニコラ・フィリベール監督が緊急来日!

登壇した監督が何を語ったのか、インタビューの様子と併せてレポートします!
2019年11月1日(金)の公開に先駆けて、聖路加国際大学で特別授業を開催

ニコラ・フィリベール監督

カメラの前でもおちゃめなニコラ・フィリベール監督。ユーモアたっぷりの話しぶりで、現場には笑顔が絶えなかった。

作品情報

フランス、パリ郊外の看護学校で学ぶ看護学生に密着し、40人150日の成長を追ったドキュメンタリー映画。学校の授業で手指衛生などの基礎を学ぶ段階から、各医療機関における臨床実習、その後の振り返りまでを丁寧に切り取る。

  • 『人生、ただいま修行中』
  • 11月1日(金)新宿武蔵野館他全国順次公開
  • 配給:ロングライド
  • 監督・撮影・編集:ニコラ・フィリベール
  • 2018年/フランス/フランス語/105分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/英題:Each and Every Moment/日本語字幕:丸山垂穂/字幕監修:西川瑞希
  • 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
  • 文部科学省特別選定(青年、成人向き)
  • 文部科学省選定(少年向き)
  • 東京都推奨映画
  • 厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財
  • longride.jp/tadaima/
  • © Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018

特別授業にニコラ監督が登場!
映画誕生のきっかけとは?

2019年10月9日(水)、聖路加国際病院のトイスラー記念ホールにて『人生、ただいま修行中』をめぐる特別授業が行われました。この日の聴衆は、聖路加国際大学の看護学生や大学院生、教員など。さらに、聖路加国際病院での勤務を終えた現役の看護師たちも続々と集まりました。

来日中のニコラ・フィリベール監督が笑顔で登場すると、ホールには大きな拍手が響きました。壇上に上がったニコラ監督は、「このような場に招待してもらえて本当にうれしい」と感謝の言葉を伝えた上で、本作が完成したいきさつについて次のように語りました。

ニコラ監督「長年にわたってドキュメンタリー映画を作成してきましたが、今回は看護というテーマが『撮影して!』と私のところにやってきてくれたような感覚です。そもそものきっかけとなったのは、2016年に私が肺塞栓症で倒れ、救急救命室(ER)に運ばれたこと。退院してすっかり元気になったころ、私を助けてくれた医療従事者、特に看護師にオマージュを捧げたいと思うようになったのです」

壇上で映画ついて語るニコラ監督

壇上で映画を製作したいきさつについて語るニコラ監督(中央)。司会を務めたのは、聖路加国際大学看護学部准教授の奥裕美先生(左)。

なぜ看護学生に着目?
映画を観た看護学生からの質問も

特別授業の中盤からは質疑応答タイムとなり、熱心に質問する人が後を絶ちませんでした。

【質問1】
「数ある医療従事者のなかでも、看護師に焦点を当てたのはなぜでしょうか?」(教員)

監督「おそらく全世界に共通のことだと思いますが、看護師は医師よりも患者のそばに寄り添う立場です。きわめて重要な仕事でありながら厳しい環境のなかで働いていることを知り、映画監督としてスポットを当てたいと思うようになりました。“影の存在”になりがちな看護師がどんな思いで働いているかを知ることは、一般の人々にとっても意義のあることだと感じています。どんな人でも、いつかは看護師のお世話になるのですから」

【質問2】
「映画を観て、自分と同じように悩みながら学ぶ看護学生の姿に共感しました。監督が入院されているとき、看護師との関わりで印象に残っていることはありますか?」(看護学生)

監督「私の発症した肺塞栓症は、呼吸するたびに短刀を突き刺されるような痛みがある厳しい病気でした。猛烈な不安感に襲われていたこともあり、正直、入院中の記憶はあまりないのです。しかし、少しずつ回復してきた入院3週目ごろには、落ち着いて会話ができるようになりました。特に印象的だったのは、読書の話で看護助手と盛り上がったこと。彼女との会話は私をリラックスさせ、つらい入院生活を忘れさせてくれました」

【質問3】
「看護師をめざす学生たちの苦悩と、それを乗り越える力強さが印象的な作品でした。今作で、現役看護師ではなく看護学生に着目した理由を教えてください」(現役看護師)

監督「看護師が担う業務は一見シンプルなように見えて、実のところ極めて難しいものです。修行中の身である看護学生を撮ることで、その大変さや複雑さを分かりやすく表現したかったのです。そして、成長したいという人間の希望ほど尊いものはありません。彼ら/彼女らが努力する道のりを、私は観客に伝えたいと思ったのです」

トイスラー記念ホール

会場となったトイスラー記念ホール。一般向けの健康講座などにも使用される、洗練された印象のホールだ。

ニコラ・フィリベール監督にインタビュー!
看護学生の取材を通して感じたこととは?

映画に感動したマイナビ看護学生の編集部は、監督への直接インタビューを実現! 作品に込められた思いを、さらに詳しく伺いました。

――実際に看護学生へ密着したことで、どんな印象を持ちましたか?

監督「映画などの作品内において、フランスの若者は“個人主義”“怠惰”“無気力”といった側面を描かれがちです。しかし、現実は必ずしもそうではありません。私が取材した看護学生たちは“他者のために働く”ことを選択し、そのために精いっぱい学んでいました。彼ら/彼女らの多くは陽気で、授業中も笑顔にあふれていたのが心に残っています」

――取材を通じて、看護という仕事にはどんな魅力があると感じましたか?

監督「フランスにおける看護師の賃金は低く、労働環境も決して良いとはいえません。看護師になりたいという若者のモチベーションがどこにあるのか、最初は疑問に感じていました。しかし、彼ら/彼女らに密着するなかで、看護師が非常に豊かな職業であることを知りました。人が人をケアするという、普遍的かつ魅力的な仕事だからこそ、多くの若者が看護師を志すのですね。自分のなかの迷いや恐怖感を克服して現場に立つ看護師は、日常のヒーロー/ヒロインといえるでしょう」

――これから現場に飛び出す日本の看護学生たちに、応援のメッセージをお願いします!

監督「看護が厳しい仕事であることは間違いありません。しかし、人の役に立つだけでなく、患者さんの人間的な側面に触れることができます。社会的な貢献度が高く、他の何にも代えがたい美しい仕事だと思います。看護師の活躍の幅は非常に広いですから、その多様性を生かしながら、自分の興味に沿ってたくさんの経験を積んでほしいと思います」

学生たちが自分自身と向き合いながら看護師をめざす過程には、国境を越えて通じる部分があるのかもしれません。監督も感動したという40人の看護学生たちの成長とは、どのようなものだったのでしょうか。その答えは、ぜひ劇場で見つけてほしいと思います。

力強く語るニコラ監督

「看護は何にも代えがたい美しい仕事だ」と力強く語るニコラ監督。

漫画「こころのナース 夜野さん」水谷緑さん描き下ろしイラスト&
著名人から絶賛コメント

「夢と希望へ向かう若者たちの顔はキラキラしていて、愛おしい。」

現在「月刊!スピリッツ」で連載中の「こころのナース 夜野さん」や、「精神科ナースになったわけ」、「32歳で初期乳がん 全然受け入れてません」など、多くの看護・医療をテーマにした作品を発表している漫画家の水谷緑さんが、看護学生の奮闘の日々を映した本作に感銘を受け、その感想イラストを寄せています。

想いを語る学生たちのきらめき。看護学生たちの抱えるリアルなドラマが、優しいタッチと色合いでいきいきと描かれていました。

『人生、ただいま修行中』イラスト・水谷緑

イラスト・水谷緑(「こころのナース 夜野さん」)

アーティストや文化人、医療関係者から絶賛コメントが到着!
<コメント一覧 ※敬称略>

谷川俊太郎(詩人)

見終わった後のこの充実感はなんだろう、良い劇映画がもたらすカタルシスとは違う。ドラマではないのに、底に流れているひとりひとりの隠されたドラマに、静かに感動している自分に気づく。

星野概念(精神科医など)

医療者の中で、患者さんの生活の細部に圧倒的に関わるのが看護師さんです。それだけに、それぞれの全ての瞬間にドラマがあり、医療者然と冷静に構えていられないことも多いように思います。でもそもそも、医療現場にいて「人」としてゆらぐのは自然なことではないでしょうか。ゆらぎながら患者さんを癒していく看護師さん達の、覚醒前夜な姿。なかなかみられない現場の臨場感が体感できる貴重な作品だと思いました。

秋山正子(訪問看護師・認定NPO法人マギーズ東京センター長)

かつて看護教員もしたことがあり、とても興味深く観ました。学生達の成長には目を見張るものがあり、応援したくなります。人として育つ経過がワクワク感とともに味わえる時間です。ドキュメンタリーのよさが光る作品。

白石正明(編集者・「医学書院」ケアをひらくシリーズ)Twitterより抜粋

肉体という無二のものの扱い方を学ぶ「魔法学校」のドキュメントを見ているよう。これだけ肉体と言葉の直接的なやりとりを見る機会はそうない。

井部俊子(長野保健医療大学教授)

10年程前にパリの郊外にある病院の看護を視察したことがある。分娩室にいたベテラン看護師は、いつから独り立ちしたのかというわれわれの気弱な質問に「卒業した翌日からよ」と言った。「学生の時にそのための準備をしてきたわけだから」とつけ加えた。その姿は力強く自信に満ちていた。今、そのプロセスが明かされる。

鎌田 實(医師/作家)

血圧測定、採血、簡単そうで簡単でない技術の壁。精神疾患や末期がん、HIVの患者の前でたじろぐ若者。壁にぶつかり、誰かのために生きようともがき、心の内を語りながら成長する看護師の卵が初々しい。感動のドキュメンタリー映画です。

小林エリカ(作家、マンガ家)

生と死に関わる現場で働くことを目指す生徒たちの姿を追いながら、ひとりひとりの人生そのものが淡々と描き出されてゆくさまは、じりじりと胸に迫ります。

監督プロフィール

ニコラ・フィリベール

現代ドキュメンタリー界の名手。日本でも話題になった『ぼくの好きな先生』などの作品で世界的に知られる映画監督で、人間の成長をテーマにした作品を数多く生み出してきた。本作では、監督・撮影・編集の3役をこなしている。