ナーストピックス

Topic. 06

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病院で犬が働く?
「ファシリティドッグ」の秘密に迫る!

闘病中の子どもたちをサポートする役割を担う犬、
ファシリティドッグを知っていますか?

東京都立小児総合医療センターで働くラブラドールレトリーバーの「アイビー」は、日本で3施設目、東京初のファシリティドッグ。日ごろどのように子どもたちと関わっているのか、ハンドラーである大橋真友子さんにお話を伺いました。

ファシリティドッグ

動物介在療法に従事するファシリティドッグ

――ファシリティドッグは、病院でどのようなことをしているのですか。

ファシリティドッグとは、「ある特定の施設に常勤して活動するために、専門的に育成された犬」のことです。代表的な活動現場の一つが医療機関で、日本では現在、静岡県立こども病院、神奈川県立こども医療センター、そして東京都立小児総合医療センターの3施設で、3頭のファシリティドッグを認定NPO法人シャイン・オン・キッズが派遣し、活躍中。アイビーの場合、週5日、常勤で働きながら、重い病気と闘う子どもたちを継続的に応援しています。

大橋真友子さん

ファシリティドッグは、幼少期から専門的なトレーニングを受け、現場に出るようになってからもハンドラーと生活を共にします。また、ファシリティドッグが担う業務は単なるふれあい活動ではなく、動物介在療法と呼ばれる専門的な治療行為(補助療法)であり、対象者に合わせた治療目標の設定や効果の測定も行います。

――ハンドラーである大橋さんにとって、アイビーはどのような存在ですか。

ファシリティドッグは活動のパートナーであり、家族の一員でもあります。2019年4月に東京都立小児総合医療センターで試験的な業務を始めるにあたり、アイビーを自宅に迎えることになりました。ペットとして犬を飼う場合と勝手が違う点は、アイビーがリラックスできる場であると常に意識すること。自宅は完全にオフの時間だと切り替え、しっかり休ませます。4人の子どもたちにも、一緒に遊びたくなる気持ちを抑え、温かく愛情を持って見守ってほしいと伝えてあります。

現在は、長期入院になるケースが多い上、外出や遊びに制限がかけられてしまう小児がんの患児を中心に、2病棟の約50人に対してアイビーが関わっています。どの患児を対象とするかは医師の指示により決まりますが、訪問日時や訪問時にやることはハンドラーに一任されます。カルテを見ながら、病棟の看護師とも相談しつつ、ベストな動き方を考えています。

大橋真友子さんとアイビー

ファシリティドッグを扱うにあたっては「1時間活動させたら1時間休憩させる」という国際基準があるため、半日に4人程度のペースで会いにいくことが多いです。患児が大変な思いをしているときこそ、「いつもそばにいるアイビーが応援に来てくれた!」という状況を作れるようにベストの調整をすることが、難しくもやりがいを感じる部分です。

つらい処置もアイビーが一緒なら頑張れる!

――医療現場でアイビーが必要とされるのは、どのような場面が多いのですか。

アイビーが必要とされる場面はたくさんありますが、中でも鎮静前の待ち時間に呼ばれることが多いです。当院では髄注などの前に鎮静をかけるのですが、意識を失う間際は怖い夢を見る患児もいます。そこで、処置の予定時間の少し前からアイビーがベッドサイドを訪れ、眠りに就くまで添い寝します。

侵襲的な処置を受ける患児の精神的な負担は大きく、医療従事者がベッドに近付くだけで泣き叫んでしまうようなケースも少なくありません。そうしたときもアイビーは、背中をグリグリ押し付けるような仕草をしながら「ここにいるよ、大丈夫だよ」とその子を一生懸命に励ましています。麻酔で意識が遠のきながらも「アイビー……」と呼ぶ子もいるほど、彼女は患児にとって大きな心の支えになっているのです。

アイビー

そのためにも日ごろから大切にしているのが、患児とのふれあいです。プレイルームなどで一緒に遊んだり、ベッドで添い寝したりして信頼関係を育みます。そうしたプロセスがあってこそ、つらい処置のときに寄り添うことで、患児の恐怖心を和らげることができるのです。

ハンドラーの仕事は看護の延長線上に

――大橋さんがファシリティドッグ・ハンドラーになるまでには、どのような試験や研修がありましたか。

ファシリティドッグ・ハンドラーになるまで

私はもともと子ども好きで小児専門病院の看護師として13年ほど働いていたのですが、私が育児休業に入ったタイミングで退職した後輩が、ファシリティドッグ関係の仕事に就いたことを知りました。実は、その後輩こそ国内初のファシリティドッグ・ハンドラーであるシャイン・オン!キッズの森田優子です。素晴らしい取り組みだと感動し、私もお手伝いしてみたいと思っていたところ、偶然にもタイミングよく新たなハンドラーの募集が始まったのです。

応募してすぐに書類選考通過の連絡を受け取り、翌日から面接がスタート。医療従事者としての経験とマルチタスク能力があることに加え、ファシリティドッグを幸せにできるかといった点が見られていたと思います。無事にハンドラーとして選ばれたときはうれしかったですが、一息つく間もなくアイビーとの研修が始まりました。犬の生態学や管理方法などに加えて、60種類以上のコマンド(指示)を学ぶ内容でした。

――最後に、ファシリティドッグ・ハンドラーに興味がある看護学生へメッセージをお願いします。

ハンドラーの仕事とは

ハンドラーの仕事は、看護の延長上にあるものだと感じています。いわば「犬を伴う看護」を安全かつ意義あるものにするためには、基礎となる看護力が欠かせません。医療現場をよく知り事故予防に努める、医師をはじめとする他の医療従事者と対等に話すといった能力を養うことは、ハンドラーへの第一歩にもなるでしょう。未来の可能性を広げるためにも、まずは看護師としての十分な経験を重ねてほしいと思います。

プロフィール

大橋 真友子さんとアイビー

大橋 真友子(おおはし まゆこ)

国立病院の看護師として成人・小児領域で約16年間の臨床経験を積んだ後、森田優子氏(国内初のファシリティドッグ・ハンドラー)の活動に興味を引かれ、同じ道を志す。認定NPO法人シャイン・オン・キッズに所属する国内3人目のファシリティドッグ・ハンドラーとして、2019年8月より東京都立小児総合医療センター(東京都府中市)で本格的に活動をスタート。現在、子育て中の4児の母でもある。

アイビー(あいびー)

2017年1月22日にアメリカで生まれた、ラブラドールレトリーバーの女の子。生後2か月からシアトルのトレーニングセンターに入り、「ハワイ留学」を経て卒業。ハンドラーである大橋さんと一緒に暮らしながら、東京都立小児総合医療センターで「フルタイム勤務」している。特技は添い寝。