わたしが選んだ道~現役ナースリアルキャリア報告~

vol.08
患者さんの人生と共に歩む〜訪問看護師

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看護師 / 24年目 今野美恵子さん(仮名)の例

先輩の例から看護師のキャリアを考えてみよう!
今回は訪問看護師の道を選んだ今野さんのケースを紹介します。

体を壊しても、「3年は何があってもやめない!」と頑張った

2011年の4月から訪問看護師として勤務し、毎日都内を自転車で走っています。看護師になった頃の私には「訪問看護師」という考えはまったくありませんでしたから不思議なものです。

都内の実家を出たくて神奈川県の医学部付属看護学校に進学しましたが、結局付属病院への就職ではなく都内の大学病院を選びました。理由はどこへ行っても通用する看護師になれると思ったから。2つの大学病院から内定をいただきましたが、勤務条件などを比較し、最終的には周りから評判がいいと聞いたことが決め手になり就職を決めました。

実家が保育園という環境で育ったこともあって、自然と小児看護に興味を持っていましたが、配属先はまさかのICU+循環器の病棟。「まさか私が…」という気持ちでした。1年目は激務とストレスの日々。初めての深夜勤で患者さんの容態が急変し、何もできず動けなかったことを覚えています。それ以降、私が夜勤の日は必ず患者さんの急変が起こるということが続き、技術はさておき度胸はつきましたね(笑)。体重は10キロ落ち、神経性胃炎を患い、夜勤明けに点滴をしてもらうことも。それでも「3年は何があってもやめない!」と思って頑張りました。仕事がきつかった分、プライベートで遊んで発散できたことでなんとか心のバランスを保っていられたのだと思います。

激務 ストレス 心のバランス

新たな分野に足を踏み入れる

7年目で異動することになり、人工心肺に興味を持っていた私はオペ室を希望し、心臓外科と整形外科のチームメンバーになりました。新たなフィールドでの仕事はとても楽しかったのですが、経験を積むにつれ西洋医学の「悪いものを切ってつなげる」ということの限界を感じ始めました。人を治療するというのはそれだけではありません。人間は自然と調和しながら生きているもの。自分の中から「治したい!」という気持ちが出てこないと治らないと思うんです。そこで東洋医学を学び、心と体のバランスを整える必要性を知りました。

大学病院を退職し、鍼灸の研修をしていましたが、オペ室で知り合った友人に誘われ、100床ほどの病院のオペ室に勤務すること3年。心と体のバランスと共に人間の生きざまが文化だと感じたことがきっかけになり、また、ずっと大学に興味があったことも手伝って、人間総合科学大学に編入学して人間科学を学びました。ジェンダーを中心に学びましたが、死生観についても考える機会がありました。人間について興味が深まる中、患者さんとのコミュニケーションが少ない日々に「人との関わりに戻りたい」と思い、訪問看護という新たな分野に足を踏み入れました。

これまでと違うのは、1人の患者さんに30分~1時間、自分のペースで向き合えること。高齢の方が多いので、状態が悪くなったり最期を看取ったりすることもありますが、患者さんの人生に深く関わることができる仕事だなと思います。1対1で関わるからこそ人の生きざまが見えて人が愛おしくなる、こんなフィールドはほかにないのではないでしょうか。これまでのさまざまな学びが今の仕事にもとても活きていますね。

1年でもいいから病棟経験をして、やりたいことを見つけてほしい

元気いっぱい働けるのはあと15年くらい。「やりたいことをやろう! 変わるなら今だ!!」という気持ちが大きくなってきました。今後は私が最初に興味を持った、子供たちに関わる仕事がしたいなと考えています。今障害児の在宅看護にも関心がありますが、生計とのバランスをとるにはどうすれば実現できるか考えているところです。

看護師は人と触れ合うことで成長していきます。今は看護師が働くフィールドもさまざまな分野に広がってきていますが、やはり基本は病棟看護だと私は感じます。学生の時に思う「自分のやりたいこと」というのは、キツイ言い方かもしれませんが忙しいカリキュラムの中で作られた思い込みであることが多いと思います。自分のやりたいこと・好きなことは本来自分が持っているものですが、目指す看護は実際に患者さんや家族の看護を通して見えてくるのです。みなさんには1年でもいいから病棟経験をして、多くの患者さんと出会い、次のステージに進んでいってほしいですね。

人との関わりに戻るため訪問看護の道へ

今野さんのキャリアからわかること

今野さんの落ち着いた語り口は患者さんを安心させる力を持っています。もともとの人柄もあると思いますが、豊富な看護師経験がそうさせるのだと感じます。

1つの場所に満足することなく次のステージに挑戦していく姿は、私たちにとってとても素敵なロールモデルになると思います。今野さんも話していましたが、「私はこの分野で頑張るんだ!」と早い時期から気負いすぎず、経験を積んでいけば自分の進むべき道は自ずと開かれていくものなのでしょうね。

インタビュアー

高山真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

看護短大・大学編入学を経て、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(ジャーナリズム修士)。病院、在宅、行政・学校・産業保健、教育機関、イベント救護など、幅広い臨床経験を持つ。並行して看護ライターとしての活動も広げ、ダンス留学、自転車ロードレース選手生活も経験。現在は医療系web編集者として、メディアの立場から看護の発展にたずさわる1児の母。

高山真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

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