わたしが選んだ道~現役ナースリアルキャリア報告~

vol.10
家庭との両立をしながらのキャリア

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看護師 / 16年目 並木陽子さんの例

先輩の例から看護師のキャリアを考えてみよう!
今回は、子育てをしながら2つの非常勤の仕事に就き、家庭との両立をはかっている
並木さんのケースを紹介します。

耳鼻咽喉科で感性が磨かれた、最初の5年間

現在4歳と6歳の子育てをしながら非常勤の仕事を2つこなす日々を過ごしています。子育てと仕事の両立は大変な部分もありますが、家事や子育て以外に自分の居場所があることでバランスを保っていられるように思います。

短大卒業後、最初の就職先に選んだのは付属の実習病院。地元に帰る人や進学する人以外の同級生はみんな付属の病院への就職を希望していたので、私も何の迷いもなく就職を決めました。「ほかの病院で働く」という選択肢は考えなかったですし、慣れ親しんだ実習病院に勤務するのが自然な流れのように感じていたのだと思います。就職後配属された耳鼻咽喉科病棟は実習であまりいい思い出がなかったところなので「これは続かないな」と感じたのが正直な気持ちでした。

声なき声を聞く仕事

耳鼻咽喉科はその特性から感覚器の疾患を持つ患者さんが多く、その看護は「声なき声を聞く仕事」という点が非常に重要な部分を占めていました。私自身の感性が試される毎日でしたし、それによって感性が磨かれましたね。厳しくも頼りになる先輩に囲まれ、「続かない」どころか気が付けば5年の月日が経っていました。私の看護観もこの5年間で培われたところが多いように感じます。

保健師・助産師に必要とされる「看護師の経験」

保育園の看護師の仕事や、ニュージーランドでのワーキングホリデーを経験し、現在保健センターと実習指導の仕事に携わっています。「大事なものは目に見えない」といいますが、看護も同じことがいえます。「ていねい」「気遣い」「気配り」といった部分はその人の何気ない振る舞いが出てくるものです。私が実習で関わる終末期看護では特に重要視されますし、私自身が看護をするうえでとても大切にしていることでもあります。実習指導は私がこれまで築いてきた「看護観」を伝える機会でもあり、学生さんがそれを1つのきっかけにして自分の看護に発展させてくれたらいいと思っています。また、看護は「人を理解するトレーニング」であると考えていて、その力をつけられるのは看護師の経験にほかならないと思います。保健センターで保健師として勤務して感じることは、保健師・助産師・看護師それぞれ対象者や働く環境は違っても、「ガンになったけどいい人生だった」「この会社に勤務してよかった」「この地域に住んでよかった」というような相手が肯定的に考えられるような関わりをしていくという本質的な部分は同じだということ。そしてその力をつけられるのは絶対的に看護師の経験が必須だということ。将来保健師や助産師に興味を持っている学生さんも多くいますが、ぜひ看護師の臨床経験をしてから次のステップに進んでほしいですね。

私の転機と今後のキャリア

私の転機となったのは、外来の腫瘍センターで抗がん剤治療のケアに関わるうちにCNS(専門看護師)に興味を持ち、大学に進学したことでした。結婚していたこともあり自宅から通える所に絞って受験し合格したものの、その後すぐ妊娠が判明。入学辞退も考えたのですが、先生方の配慮や家族の応援もあって、出産後も休学することなく大学生活を続けることができました。大学卒業後、保健師免許を取得できたことが今の仕事にもつながっています。子育てにエネルギーを費やす時期でもある今、CNSになるための大学院進学はまだ叶っていませんが、今後のキャリアの選択肢の1つにしたいと思っています。

今は就職に関してたくさんの選択肢があって迷うことも多いと思いますが、学生のみなさんには看護にプライドを持っている病院を選んでほしいですね。説明会や病院見学を通して、看護のよさを肌で感じられる病院だという印象を持てるならば安心して働けるのではないでしょうか。また、気になる病院があれば、そこで働いている人たちの生の声を聞けるといいですね。話の中からその病院がどれだけスタッフを大切にしているかがわかりますし、スタッフは自分が大切にされているからこそ患者さんや家族を大切にできるのです。

家族と私が幸せになれる選択肢

40歳という年齢が近づいてきて、非常勤という働き方ではなくそろそろ腰を据えて仕事をしようかと考えるようになりました。ふと周りを見てみると、主任や師長になっている同期もいて、私も大学病院を辞めずに残っていれば今頃は…と思うこともあります。でも、これまでいろいろな経験をしてきた分、人の輪が広がったことはとてもプラスになっていますから、ないものねだりかとも思うのですが(笑)。

独身時代と違って「今後自分がやりたいこと」を考えるには「夫の仕事」や「子供たちの成長」とのバランスをうまく保っていくことが不可欠です。自分にとってベストな選択が必ずしも家族にもベストとは限りません。家族と私が幸せになれる選択肢はどれなのだろうか。保健師として常勤で働くか、大学院に進学するか…今後のキャリアをどうしていくか、模索する日々がしばらく続きそうです。

並木さんのキャリアからわかること

保健センターと大学の非常勤教員の2つをこなす並木さんの背景には、多くの変化に富んだ人生とキャリアがあり、特に大学編入後に出産・育児を経験したという話は驚きでした。しかし経験の中からしっかりと目標を見いだし、周りのサポートと並木さん自身の強い信念があってこそ成し遂げられるものだと思います。

そして、将来を見据えて今後のキャリア選択に悩む並木さんの姿は、近い将来の私自身の姿でもあります。最初の就職だけでなく一生悩み続けながら、その時の環境やタイミングに応じて適したキャリアを一つひとつ選択していくものなのでしょうね。

インタビュアー

高山真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

看護短大・大学編入学を経て、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(ジャーナリズム修士)。病院、在宅、行政・学校・産業保健、教育機関、イベント救護など、幅広い臨床経験を持つ。並行して看護ライターとしての活動も広げ、ダンス留学、自転車ロードレース選手生活も経験。現在は医療系web編集者として、メディアの立場から看護の発展にたずさわる1児の母。

高山真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)
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